東京高等裁判所 昭和29年(ネ)351号 判決
控訴人は被控訴人に対し東京都墨田区向島須崎町百五十番地宅地百七十七坪一合四勺のうち東南方七十四坪三合を、その地上に存する木造瓦葺二階建一棟建坪二十六坪二合五勺二階十一坪の建物を収去して、明け渡すべし。
訴訟費用は第一審、差戻前の第二審、上告審及び差戻後の第二審を通じて全部控訴人の負担とする。
この判決は、被控訴人において金十万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。
控訴人において金二十万円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。
二、事 実
控訴代理人は原判決中主文第二項を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は主文第一ないし第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。
事実上の主張として被控訴代理人は被控訴人の先代村田たけは訴外鈴木彦一郎(原審相被告、差戻前の相控訴人)所有の東京都墨田区向島須崎町一五〇番地宅地一七七坪一合につき木造建物所有のため昭和十六年十一月一日から向二十年間(但し昭和二十年七月十二日から昭和二十一年九月十五日までの期間を除く)賃料一坪につき一カ月金二十銭の賃借権を有し、その地上に建物を建築所有していたが、右建物は昭和二十年三月十日の空襲により焼失した、しかるに控訴人は昭和二十年十二月十五日右鈴木から右土地のうち東南方七四坪三合の部分を賃借し、その地上に主文第二項記載のような建物を建築所有してその敷地を占有している、被控訴人先代村田たけは昭和二十八年八月二十三日死亡し被控訴人においてその権利義務一切を承継した、被控訴人は戦時罹災土地物件令及び罹災都市借地借家臨時処理法の規定にもとずき当然右鈴木に対する賃借権をもつて控訴人に対抗し得るものであるから、ここに右賃借権にもとずきその妨害を排除するため控訴人に対し右建物を収去しその敷地を明け渡すべきことを求めるものであると述べ、控訴代理人において控訴人が被控訴人主張の日時鈴木から主文第二項記載の土地七四坪三合の部分を賃借し、その地上に被控訴人主張のような建物を建築所有してその敷地を占有することは認める、被控訴人先代村田たけが被控訴人主張の建物を所有しこれが昭和二十年三月十日空襲により焼失したことは知らない。被控訴人にその主張のような賃借権があるとしても、賃借権は債権であるからこれにもとずいて第三者である控訴人に対し建物収去土地明渡を求めることはできないと述べた。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人先代村田たけがはじめ、鈴木彦一郎及び控訴人を相手取り、原審東京地方裁判所に被控訴人主張のような賃借権を有することの確認、及び控訴人に対し被控訴人主張の建物収去を各求める訴を提起し、同裁判所において被控訴人全部勝訴の判決があり、これに対し右鈴木及び控訴人から東京高等裁判所に控訴の提起があり、その結果同裁判所は賃借権確認の点についてはその法令による進行停止期間の点を修正して実質的には被控訴人の請求を認容したが、控訴人に対する建物収去の点については賃借権は債権であるからこれにもとずいては第三者に対しその侵害の排除を求めることはできないとの理由でこの点に関する原判決を取り消し被控訴人の請求を棄却した。被控訴人はこの判決中被控訴人敗訴の部分につき最高裁判所に上告したところ最高裁判所において原判決を破棄して本件を東京高等裁判所に差戻す旨の判決があつて、事件は当庁に再び係属するにいたつた。以上の事実は記録上明らかなところであつて、これによつて見ると被控訴人が鈴木に対して被控訴人主張のような賃借権を有することは被控訴人と右鈴木及び控訴人間において確認すべきこと右差戻前の当裁判所が判決したところであつて、この点についてはいずれも不服申立がなかつたものである。従つて当裁判所は被控訴人がその主張のような賃借権を有することを前提として、直ちに控訴人に対し右賃借権にもとずき建物収去土地明渡を請求し得るかどうかについてだけ判決すれば足りるものというべきである(民事訴訟法第三七七条第一項第三八五条第三九六条参照)。
控訴人が昭和二十年十二月十五日鈴木彦一郎から被控訴人主張の土地七四坪三合の部分を賃借し、その地上に主文第二項記載のような建物を建築所有して現にその敷地を占有していることは当事者間に争ない。右土地を含む同所一七七坪一合につき被控訴人先代村田たけがかねてから賃借権を有することは前記のとおりであり、被控訴人先代が右地上に所有した建物が昭和二十年三月十日空襲により焼失したことは当審における村田たけ(当時被控訴人)本人尋問の結果により明らかであり、右村田たけが昭和二十八年八月二十三日死亡し被控訴人においてその権利義務一切を承継したことは控訴人の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなす。従つて被控訴人は戦時罹災土地物件令第六条第三条により、右賃借権をもつて、その登記及びその土地上に存する建物の登記がなくても、建物罹災後に右土地につき権利を取得した控訴人に対抗し得ることは明らかであり被控訴人はこの賃借にもとずき完全なる行使をはかるため、現にこの土地の一部七四坪三合の上に前記建物を所有しその敷地を占有して被控訴人の権利の行使を妨げている控訴人に対し、その妨害の排除を請求し得ること明らかである。
しからば控訴人に対し右建物収去土地明渡を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。この点につき被控訴人は原審においてはたんに建物収去のみを求めたところ、当審において右のように土地の明渡をも求めるよう請求を拡張したものであるから、この点に関する原判決の主文第二項を右のように変更すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条を、仮執行の宣言及びその免脱につき同法第百九十六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)